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熊本地方裁判所 昭和59年(行ウ)6号 判決 1988年7月07日

原告

高戸勇

外七五名

原告ら訴訟代理人弁護士

津留雅昭

川副正敏

田尻和子

被告

熊本県知事細川護煕

右訴訟代理人弁護士

中野昌治

右指定代理人

安齋隆

外二二名

被告補助参加人

九州電力株式会社

右代表者代表取締役

渡邉哲也

右訴訟代理人弁護士

川野次郎

中野昌治

主文

一  原告らの訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、被告補助参加人に対し、昭和五九年二月二七日、熊本県指令河第七〇号をもつてなした、別紙公有水面目録記載の埋立を免許する旨の処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

主文同旨

(本案の答弁)

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告らの地位

(一) 原告らは、いずれも以下のとおり、被告のなした後記2記載の公有水面埋立免許処分(以下「本件埋立(免許処分)」という。)によつて埋立予定地とされている地域の周辺に居住し生活している者である。

(1) 別紙原告目録記載の番号54、62、72の原告ら三名は、本件埋立予定地周辺の海域に共同漁業権を有する訴外苓北町漁業協同組合の組合員であり、現に本件埋立予定地周辺の海域において漁業を営み生計を立てている者である。

(2) 同目録記載の番号2、3、6、7、9、10、20、22ないし34、36ないし41、43、52、53、55ないし61、63ないし65、73、74、76の原告ら四二名は、本件埋立予定地のある苓北町及びこれに隣接する五和町において農業を営み生計をたてている者である。

(3) 同目録記載の番号1、5、19、21、48ないし51、66、75の原告ら一〇名は、じん肺法に基づき、熊本県労働基準局長から要治療と認定されたじん肺患者である。

(4) 右に述べた以外の原告ら二一名は、苓北町及びこれに隣接する天草町、五和町、本渡市に居住する自治体議員、公務員、教師、小売商及び主婦等である。

(二) 原告らは、本件埋立が実施され、さらにその埋立地上に計画されている九州電力苓北火力発電所(以下「苓北火電」という)が建設され稼働することによつて、その生命と健康が蝕まれ、生活の糧としている農業、漁業等の営みを阻害され、加えて豊かな自然環境の恵みをも奪われる立場にある者である。

2  被告の本件公有水面埋立免許処分

(一) 被告は、昭和五九年二月二七日、被告補助参加人(以下「補助参加人」という)に対し、苓北火電の建設と稼働に要する用地造成のため、熊本県指令河第七〇号をもつて、別紙公有水面目録記載の公有水面約八一万平方メートルについて埋立免許を与えた。

(二) 被告は、後記3(二)2の如く、昭和六一年八月一三日、補助参加人に対し、本件埋立に必要な土砂につき、本件埋立地点背後の山林からこれを採取するという当初の計画を、市販されている山土、海砂等に変更するということに伴う設計概要の変更を許可する旨の処分をなした。

3  本件埋立免許処分の違法性

(一) 公有水面埋立法(以下「公水法」という。)四条一項二号(環境保全及び公害防止への配慮)違反

(1) 昭和四八年の公水法の改正において免許要件の明確化が図られ、同号が新たに規定されたものであるところ、右改正の主眼とするところは、埋立免許の出願事項を公衆の縦覧に供する等埋立に利害関係を有する者の意見を反映させる措置を拡充すること、埋立て免許の基準を法定し、環境保全・災害防止への配慮が十分なされること等、その内容を明確にすること、さらに、大規模な埋立については環境保全上の観点から環境庁長官の意見を求めること等であつた。

そこで同改正は右の二号の外、さらにその三号で「埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体ノ法律ニ基ヅク計画ニ違背セザルコト」とも規定し、これらを併せて公水法上の環境保全条項として、環境保全に関する免許権者への厳しい審査義務を課すものとなつた。

また、同法四七条二項が、主務大臣が行なう一定の埋立免許の認可に際しては、環境保全上の観点から環境庁長官の意見を求めることとし、同三条においては、出願願書の公衆縦覧、地元市町村長の意見の徴取、知事の関係住民への周知、利害関係人の意見書提出権を定めて、右審査手続における、地元自治体、住民の参加が手続上も保障されることとなつたのである。

さらに同法施行規則は、願書へは命令をもつて定める図書を添付すべきとした同法二条三項五号をうけて、「環境保全に関し講じる措置を記載した図書」の添付を申請人に義務付けている。

このように、公水法とその施行規則の各条文及び同改正に際しての経過、趣旨等を踏まえていけば、同法においては、処分権者の環境保全に対する配慮義務の内容としても、実質的に環境アセスメントの考え方ないし手続を取り入れているものというべきであり、同法四条一項二号の免許基準がその趣旨を明らかにしているといわねばならない。

(2) したがつて、免許権者たる被告は、右環境配慮義務に従い、出願人である補助参加人が本件埋立行為及び苓北火電の建設、稼働に伴つて生じる環境に対する影響について、事前に十分に調査をなし検討を尽くしたか否か、予想される環境への影響についての公害防止措置対策が十分に尽くされたものか否か、さらには地域住民に対して十分な説明や理解を得る努力が尽くされたかどうかといつた観点についての十分な審査義務を尽くさねばならないのである。

しかしながら、被告は、埋立及び苓北火電によつて原告ら住民の健康生命さらに生活全般に及ぶ被害が十分に予測されるのに、補助参加人のした環境アセスメントにおける「影響は少ない」との結論に漫然と追随して原告ら住民の不安には何ら答えぬままに本件免許を与えたものであつて、右は右環境配慮を尽くさない違法があるといわねばならない。

(二) 公水法四条一項一号(適正且つ合理的な国土利用)違反

(1) 同号も昭和四八年の改正において明定されたものであるが、これも埋立に伴う開発が自然環境を人為的に変質させ、ひいては環境破壊を惹起する危険を有し、国土の変質を不可逆的にひきおこすものであるという重大性に鑑みて、埋立計画の公共性・合理性と確実性を要求するものである。

前述した同法三条の縦覧・意見徴取といつた手続保障も、右埋立及び埋立地利用の計画のもつ公共性・合理性を担保するものであるといえる。

そこで右条項に従い、免許権者たる被告は本件埋立と苓北火電の建設計画が公共的見地から十分に適正であり合理性と必要性を持ち、また計画達成についての確実性を持つものであるのかについての審査を尽くすべきであつた。

しかるに、本件埋立を含む苓北火電計画は、被告のいう「脱石油」、「エネルギー源多様化」からの必要論とは全く逆に、確実な将来的エネルギー対策への見通しを欠いたままに、補助参加人のみの利潤追及のためにする資源・エネルギー消費施策を助長するしかないものであること、さらに苓北火電建設の必要性の一つとされる「電力安定供給論」との議論も過去及び将来における電力消費の実績と見通しに立脚しない全くご都合主義的なものであること、補助参加人の推し進める電源開発は巨大電源の集中立地に向けられており、県内自給、送電補給論も口実にすぎないこと、苓北火電による地元天草の地域経済振興をいうも、一過性ともいうべき漁業補償金・電源交付金と見返りに取り返しのつかない環境破壊が既に護岸工事の段階ですら始まつており、予測される苓北火電立地に伴う環境・健康・生命・農業・漁業等に対する被害を考える時、天草の生活・経済に多大なる打撃を与えることとなろうことは必至であること、以上の点が明らかとなつた。

(2) また、本件埋立計画自体が如何に将来における見通しを欠いた確実性がないものであるかは、本件免許後に所謂「採土地」を変更することを余儀なくされるに至つて明白となつた。

すなわち、本件公有水面埋立計画のうち、A工区については、埋立地点背後の山林から採取する約四〇〇万立方メートルの土石、砂れきを使用して埋立られるものと計画されていたところ、右採土地内に土地を所有している者の過半を占め、また、採土地予定土量の大半をも占める原告らを含む反対地権者らが、従来より一貫して採土に応じない旨を表明してきたにかかわらず、採土地問題解決の見込みがないまま、昭和五九年二月、本件埋立免許が補助参加人に交付され、同年四月には護岸工事が着工されたが、すでに着工から一年を超え、当初の護岸工事完成予定の昭和六一年四月を前にしても採土地地権者の説得の目処は全く進展がなく、もはや当初の採土地計画の成就など完全に望みなきものとなるに至り、結局、同年五月一四日、補助参加人は原採土予定地の断念、市販海砂・土砂への変更を内容とする設計概要変更を被告へ申請し、同年八月一三日被告はこれを許可するに至つたのである。

採土地計画は、本件埋立免許の審査にあたつて、各要件の中に、いずれも重要な位置をもつものであり、その確定の有無、内容の如何を無視しては、本件埋立基準につき、これが公水法四条一項各号の要件に適合するや否かを判断すること自体、不可能であつたといいうるのである。しかるに、本件免許交付時において、採土地計画は、その予定土量の半分余りしか確保し得ず、将来的にも護岸工事完成までの二年余の間に反対地権者を説得するなどという期待に何らの客観性もなかつたことが変更処分によつて確定的なものとなつた。

結局、被告は、採土地計画に具体的な目処がないことを承知しあるいは故意にこれを無視し、ただただ苓北火電の運転開始予定に間に合わせるためにとの政治的配慮にたつて本件埋立免許を交付したものであり、その処分の恣意性、独断性は明白である。

さらに、本件火電計画のもつ欠陥として、苓北火電が稼働するについて建設が予定されている県営都呂々ダムも、その計画において必要とされる淡水の確保は不可能であること、また、苓北火電において発電された電力を各地へ送電する為の送電線計画や燃料とされる大量の石炭を運搬する船舶に対する港湾施設計画、一〇年で満杯とされる灰捨場計画等苓北火電に付随し本体計画を支えるべき諸々の周辺事業の計画がいずれも展望を欠くものや実現性に乏しい内容であることも、本計画全体の非合理性・不確実性を根拠づけるものといえる。

以上の点からしてみて、本火電計画自体が到底適正かつ合理性があるとはいえないのに、これを漫然と、ないしは故意に看過ごして本件免許を与えた被告の判断には裁量を過つた違法がある。

(三) 憲法一三条、二五条違反

本件埋立及び苓北火電は原告ら住民にとつて何ものももたらすことなく、ただ自然環境を破壊しそこに住む原告らの生命・健康そして生活を破壊するものとなるのであろうことは明らかである。これは人として原告らが享有すべき人格の尊重、そして生命・自由・幸福追及の権利(憲法一三条)ないし健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(同法二五条)を侵害するものである。被告は、免許権者として右侵害を予測し、これを防止すべき義務があるのに、漫然と本件免許を与えた違法があるといわねばならない。

4  設計概要変更許可処分の違法性

(一) 「正当の事由」の不存在

公水法一三条ノ二第一項は「都道府県知事ハ正当ノ事由アリト認ムルトキハ免許ヲ為シタル埋立ニ関シ……設計概要ノ変更……ヲ許可スルコト得」と規定しているところ、同条にいう設計概要の変更が許されるとする「正当ノ事由」とは、当初の設計内容が免許後の科学技術の発展に伴い不合理なものとされたり、設計の前提としていた諸資料の中に予期せぬ変動や誤りが発見されたりした為当初の設計を維持することが埋立工事の進捗への明白な障害となり、この障害をとり除く為には設計を変更する外に方法がないといつた必要性が客観的に明らかな場合でなければならない。さらに、変更される内容が従前の設計内容の誤りを克服するものであることはもとより、変更された内容によればさらなる変更を要せず埋立を完遂しえるに足りるだけの十分且つ合理的な内容をもつていることをも要求される。

しかるに、補助参加人が本件変更許可申請の理由とするところは、前述のとおり要するに当初予定していた背後の山からの採土が地権者の反対によつて断念せざるを得なくなつたというに尽きるが、そもそも当初の採土予定地からの採土そのものが確実な見通しを欠いていたものであり、早晩採土計画が破綻することが予期しえたのに、敢えて本件免許の交付をうけて工事に着工し、結局採土地断念へと立ち至つたのは、あげて補助参加人自らの責めに帰されるべきものというべきであつて、かような場合にまで本件変更を必要とすべき客観性、合理性は見出せないものといわざるを得ず、これを許した被告の裁量にも重大な誤り、違法がある。

また、変更するという内容においても重大な欠陥がある。すなわち、本件変更許可申請書に添付された採取場所等を記載した図書は、具体的にどこの地点から如何なる土質の如何程の量の土砂を採取し、如何様な経路で搬入しようとするのか詳細にされないままであり、莫大な山土、海砂の採取に当たつては地権者や漁業権者との調整など断念された原採土地問題と同様の困難性も当然に予想されるところであるのに、当該申請書に示された内容のみでは果たして新たな採土計画に具体性があるものか、また実現可能なものや否やをくみとり検討する事は殆ど不可能に近いのである。結局かかる申請内容を以てしては変更にかかる設計内容の当否を審査することは到底できないのに、被告は補助参加人の申請のままにこれを許可したのである。

以上のとおりに本件変更許可処分は、変更を許すべき必要性においても変更内容の合理性においても到底これを正当とすべき客観的理由を見出すことはできないものであり、公水法一三条ノ二のいう「正当の事由」を有しないことは明白である。

(二) 環境配慮等への違法

公水法一三条ノ二第二項により、設計概要の変更に際しては同法四条一項及び二項が準用される。これは設計変更に伴い、四条一項各号の定める免許基準の事由に変更が生じることが予想されるので、変更される設計内容においても免許基準を満たすことを要求したものと解される。特に一項二号にいう「環境保全及災害防止」への十分な配慮については、本免許時と同様に環境影響調査等を実施するなどしての十分且厳格なチェックが義務付けられていると解される。

ところが昭和六一年五月の本件変更許可申請からその許可処分まではわずかに三ケ月余りしかなく、この間補助参加人や被告自らが設計内容の変更に伴う何らかの環境影響調査を実施したとは聞かない。採土地の変更に伴い、背後の山が消失することを前提にしてきた従前の補助参加人の影響調査なり、県の実施したクロスチェックにはその前提資料に大きな変更が生ずることとなり、大幅な見直し修正こそ必要であつた。さらに変更された設計によれば莫大な山土、海砂を数ケ所から採取することとされており、採取に伴う各地点での環境への影響やさらに運搬に伴う災害の予防等についても充分な吟味こそ必要であつた。しかし、前述のとおり補助参加人申請の書面を以ては採取地点を特定することは不可能である為、採取に伴なう影響を調査チェックすること自体無理なものであつた。

結局、被告は、本件変更許可に際し、充分なる環境配慮もなさぬままに漫然と補助参加人の申請のままにこれを承認したものであつて、公水法四条にいう免許基準に基づく判断を怠つた裁量逸脱の違法がある。

5  よつて、本件公有水面埋立免許処分は違法であるから、その取消を求める。

二  被告の本案前の主張

原告らは、本件公有水面埋立免許処分の取消しを求めるにつき、何ら法律上の利益を有しないから、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)九条の規定に照らし、本件訴えを提起する原告適格を有しないものである。よつて、本件訴えは、不適法として却下されるべきである。

1  行訴法九条は、行政処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益」を有する者に限り、取消しの訴えを提起できる旨規定している。

右の「法律上の利益」の意義については、判例上、「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう」(最高裁判所昭和五三年三月一四日第三小法廷判決、民集三二巻二号二一一頁。)とされ、「右にいう法律上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であつて、それは行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定の者が受けることとなる反射的利益とは区別されるべきもの」(同判決)とされ、いわゆる法的利益救済説がとられている。

2  右によれば、本件においては、原告らにおいてまず第一に、「個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益」とは何かを、当該行政法規たる公水法の解釈によつて明らかにし、第二に、右の法律上の利益と原告ら各個人との結びつきを具体的に明らかにすべきこととなる。

この点につき原告らは、本件埋立及び埋立地上に予定された火力発電所の稼働により、漁業、農業、環境、健康、生命に対する重大な被害を生ずると主張している。

右の主張のうち、訴状別紙原告目録の番号54、62、72の三原告についてみれば、同原告らにおいて苓北町漁業協同組合の組合員であることから、同組合の有する漁業権を主張していると推察される。しかし、そうだとしても、漁業権は、右原告ら個人にではなく、右組合に帰属するものであることは漁業法八条の規定上明らかであるし、また、原告ら自身の右主張によつても、同組合は、本件埋立による工事の施行区域内に漁業権を有しているのではなく、「本件埋立予定地周辺の海域」に漁業権を有しているにすぎないものであるところ、公水法では、埋立に関する工事の施行区域内の漁業権を保護するために行政権の行使を規制しているが(同法四条、五条)、それ以上に埋立工事施行区域外である周辺海域で操業される漁業につき生じる漁獲の減少その他の被害や影響に対しては、これを保護するために行政権の行使を規制するための規定を設けていないのであるから、右原告らには、これにより法律上保護された利益はないというべきである。更に、原告らが、漁業権によらず、事実上行つている漁業について被害が及ぶことを主張しているものとしても、公水法には、原告らのこのような漁業を保護するために行政権の行使を規制する規定は存在しない。

このことは、原告らの主張する良好な環境を享受する利益、更には埋立地上に建設が予定される火力発電所の稼働による被害等の主張についても、同様にあてはまるものである。すなわち、公水法の規定の中で、原告ら主張の権利、利益と係わりを有する規定としては、同法四条一項二、三号の規定をおいて外にないのであるが、これらの規定は、埋立による付近の環境への影響を公益保持の観点から、一般的、抽象的に考慮すべきことを要求するにすぎないもので、原告ら個人のため、個別具体的に付近の環境への影響を考慮すべきことを要求するものではない。

同法四条一項二号は、「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」と規定するが、この規定は埋立の付近環境に及ぼす影響を一種の公益保持の見地から、一般的、抽象的に審査することを要求しているにすぎず、特定の個人の有する利益を個別的具体的に保護する趣旨ではない。すなわち、右の規定は、環境保全の具体的基準すら明示しておらず、行政庁に対し抽象的に環境保全に対する配慮を求めているにすぎないのであつて、これにより付近住民が一定限度を超える環境悪化を受けないという利益は、まさに、右規定が目的とする公益保護の結果として生ずる反射的利益にすぎないのである。

また同項三号は、「埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト」と規定するが、右の「土地利用……ニ関スル……計画」とは港湾法三条の二の港湾計画、都市計画法による都市計画区域の指定をいい、「環境保全ニ関スル……計画」とは公害対策基本法九条あるいは一九条にいう基準ないし計画がこれにあたると解される。本件で問題となるのは環境保全に関する計画であるが、これらの計画は公害防止上維持されることが望ましい基準であつて、行政の努力目標を定めるものである。このような環境保全に関する計画の法的性格からみても、同号の規定は、公益保持の見地から一定限度以上の環境悪化を防止しようとする行政庁の行為規範と解されるのであつて、同号が付近住民に対して一定限度を超える環境悪化を受けないという利益を個別的に保障した規定と解することはできない。

3  以上によれば、原告らの主張するところは、いずれも本件訴の利益を基礎づけるものでないことが明らかであるが、原告らの主張のうち、本件埋立地に建設が予定される火力発電所の稼働に伴う被害の主張については、その訴えの利益のないことは次の事実からも基礎づけられる。

すなわち、公有水面埋立免許は公有水面を埋立てて土地を造成することを認める行政処分(埋立権の付与)にすぎず、埋立工事完了後の埋立地の利用によつて発生する問題は、公有水面埋立免許の直接の効果ではない。したがつて、原告らの右主張は「法律上の利益」とは関係のない主張である。また、苓北火電の稼働については他の所管行政庁が審査することとなつており、被告には右審査権限はないのであるから、この点からも原告ら主張の事情は、本件埋立免許の取消しを求めるにつき「法律上の利益」を基礎づけるものではない。

すなわち、補助参加人のような電気事業者が埋立地上に火力発電所を建設する場合、まず通商産業大臣から電気工作物の変更許可(電気事業法八条一項)を受けたうえ、同大臣の工事計画認可(同法四一条一項)を受けなければならず、しかも実際の稼働には、同大臣の使用前検査(同法四三条一項)を受けなければならず、稼働後も電気事業者は、電気事業の用に供する電気工作物を一定の技術基準に適合させることを義務づけられ、これが遵守されないときは、同大臣はその技術基準に適合するよう電気工作物を修理し、改造し若しくは移転し、若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ、又はその使用を制限することができる(同法四八条、四九条)とされている。

また、原告らの主張する大気汚染及び温排水などの問題についても前記電気事業法上の手続の中で厳重に審査されることになつており(電気事業法施行規則三二条)、一般の規制法たる大気汚染防止法(同法二七条)や水質汚濁防止法(同法二三条)は適用されないこととなつているのである。

なお、公水法四条一項三号の規定による埋立免許権者の審査は、埋立地の用途が国又は地方公共団体の法律に基づく計画との適合性を有しているか否かという一般公益的見地からなされるものであつて、被告に前記問題の審査権を与えたものとは到底解することができない。

もし仮に、公有水面埋立免許の段階で、埋立地上の具体的利用ないしその埋立地上に建設される施設の稼働(以下「上物」という。)についてまで審査するとすれば、それは、実定法規の具体的根拠のない審査であり、申請人が任意に協力するものでないかぎり、その審査は「行政の諸活動は、法律の定めるところにより、法律に従つて行なわなければならない。」という大原則にもとるものといわざるを得ない。

また、仮に公有水面埋立免許の段階で、「上物」についてまで審査するとすれば、法理論上次のような問題が起こつてくることに注意しなければならない。すなわち、まず第一に、埋立免許の審査段階で、「上物」についてまで審査するとなると、その審査した事柄は埋立免許の公定力及び不可争力として「上物」を規制する電気事業法等の審査にまで及ぶこととなり、その結果、電気事業法等の審査の処分を争う段階では「上物」の違法理由を全く主張し得なくなり、現実に火力発電所が操業する段階で、工事計画の認可等を争おうとする者は、「上物」による影響を違法理由として主張し得ないこととなる。

さらに、現実に火力発電所が操業する段階で、自己の法律上の利益が侵害されることを主張して操業を差し止めようとする場合には、通常の民事訴訟法上の仮処分によることは許されず、民事訴訟法上の仮処分とは比較にならぬ厳格な要件を課された行政上の執行停止によるしかないことになる。こうした結果は、電気事業法による行政処分を争おうとする者あるいは民事訴訟法上の仮処分により操業の差止めを求めようとする者から、現実的な争訟手段を奪うもので、著しく不合理であることは明らかであろう。

三  本案前の主張に対する原告の認否及び反論

1  争う。

2  原告らとしては、訴えの利益の判定に当つては、むしろ「保護に価する利益説」の説くところに従い、裁判所が直截的に紛争事案を見据え、原告の主張する利益が裁判上の保護に価するものかどうかを具体的事案に即して判断して訴えの利益を認定するべきであるとの立場に同調する者であるが、仮に被告らの引用する最高裁判決の前記論理にたつとしても、公水法上の趣旨・目的や沿革、実際の運用等の合理的・総合的解釈によつて、充分に原告らの原告適格を根拠づけることができるものと解される。

(一) 公水法の趣旨・目的と原告適格

(1) 公水法の目的とするところは、無謀・無計画な埋立を禁止し、埋立を認めるとしても、国土利用上の適正・合理性さらには環境保全への配慮など厳格な基準を満たす場合に限るものとし、もつて無謀・無計画な埋立による乱開発・自然破壊を防止し、国土の適正利用と環境保全等を企図せんとするところにあると解される。そして、国土の適正利用といい、環境保全といつても、つまるところ、かように埋立とその利用によつて影響を受ける住民らの利益を全く離れて観念されるべきものではない。その埋立が適正かつ合理的であるかの判断に当つては、一方で住民の蒙る様々な影響が充分検討されるべきであるし、環境の保全が果たされるか否かも、何よりもその環境の中で既に住民らが享受してきた有形無形の利益への配慮を抜きにしては評価をなしえない。

(2) 公水法が単に「権利者」のみでなく、広く付近住民の利益をも保護しているものであることは、同法及びその施行令等の規定をみても充分に根拠づけられる。

先ず公水法三条は、免許前の手続として出願をうけた知事は遅滞なくその事件の要領を告示すると共に、出願の願書等の書面を公衆の縦覧に供し、かつ地元の市町村長の意見を徴すべきものとし(同条一項)、市町村長が意見を述べる時は議会の議決を要するものとする(同条四項)。又同条によると告示をした知事はその旨を関係する都道府県の知事へ通知をなし(同条二項)、その通知をうけた関係知事は、遅滞なくこれを関係住民に周知することを努めることとする(施行令四条)。さらに、埋立に関し利害関係を有する者は、知事に意見書を提出することができるものと定める(同条三項)。

かように告示そして地元縦覧、議会の決議を経ての市町村長の意見書提出権、利害関係人の意見書提出権といつた免許前手続の流れは、免許より以前に埋立に関係する地元住民や自治体に出願のあつた埋立計画を明らかにし、これに対し、利害関係を有する者や地元自治体の長に意見を述べる機会を保障しているのである。加えて、同施行令は、知事は免許をなすにつき公益上又は利害関係人の保護に関して必要と認める条件を附することができる(施行令六条)とする。公益上の観点のみでなく、利害関係人の特定の利益保護のためにも条件を附することを認めるとし、しかも広く利害関係人と定めているところからして、右は同法五条にいう権利者のみならず、その埋立によつての利害の得喪変更を生じる者一般を意味しているものと解される。

(3) さらに同法四条一項の免許基準の中でも、埋立に当り環境保全への充分な配慮がなされるべきであることを要求する。被告は、これら規定を捉えて、「埋立による付近の環境への影響を公益保護の観点から、一般的抽象的に考慮すべきことを要求するにすぎない」という。しかし同項が、高度経済成長期における無計画な環境破壊そして公害の増大という歴史的背景からそれらへの歯止めとして、特に昭和四八年の改正によつてつけ加えられたという沿革や、「国民の健康を保護」し、「生活環境を保全する」ことを目的とする公害対策基本法が地方公共団体の責務として「住民の健康を保護し、及び生活環境を保全する」為の施策の策定と実施をうたつていること(同法五条)からすると、公水法四条にいう環境の保全というのも、単に抽象的一般的配慮を求めたに留まらず、当該地方自治体住民の「健康」と「環境」の保護・保全を個別・具体的に配慮すべき責務を宣言したものと解すべきである。この理は、同法四七条が主務大臣の認可に際し、環境保全上の観点からする環境庁長官の意見を求めるべきことが義務づけられていることからも一層明らかとなる。

(二) 火電による影響と原告適格(上物論)

(1) 本件において、原告らが本件免許処分の違法性として主張する最大のものは、埋立地上に建設・稼働が予定されている火力発電所から生ずるところの原告への健康・生命さらには生活全体に及ぶ被害について、被告が十分なる配慮を尽くさなかつたという裁量の逸脱ないし濫用があるとする点である。しかるに、被告のいうところは、本件埋立免許処分は単に埋立を認めるにすぎず、火電の建設や稼働に伴う被害の主張は、原告適格の要件たる保護されるべき利益を根拠づけるものとはなりえないとして、いわゆる火電峻別論(上物論)をいうのである。なるほど、公有水面の埋立免許処分は、海面を埋立て土地を造成することを許すにすぎない行為であつて、その埋立地に将来建設が予定されている施設の設置と稼働についてまでの許・認可を含むものではないということも、法の形式論としてはいえないわけではないかもしれないが、そもそも公有水面を埋立てるなどという重大な事業が、埋立をした造成地の利用目的を決めないまま実行されるなど決してあり得ないことである。発電所を建設するにせよ、工場を誘致するにせよ、まずそれら土地利用計画自体が先行して策定され、その計画に必要な用地取得の方法として公有水面の埋立が行なわれるというのが一般的である。本件苓北火電計画の場合も同様であつた。

(2) さらに、公水法二条により、埋立免許を受けようとする者は、願書の記載事項の一として「埋立地の用途」の記載が要求されており(同法施行規則三条四号参照)、また同法四条によつて、免許基準は、埋立が「国土利用上適正且合理的」であること(同条一項一号)、「埋立地ノ用途ニ照シ配置及規模ガ適正」であること(同項四号)とされていること、及び埋立地の用途を変更する場合は県知事の許可を受くべき(同法二九条)とされている等に照らすと、同法が用途を定めない無目的の埋立を容認するものでは決してないことは明らかである。

そして、昭和四八年の同法改正により、新たにその四条が免許基準として「其ノ埋立カ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」(同法一項二号)、「埋立地ノ用途カ……環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト」(同三号)とのいわゆる環境配慮条項を加えることとなつたが(同法施行規則三条八号参照)、環境保全といい災害防止といつても、けつして抽象的・一般的な観点からの配慮をもつて足りるものではなく、それらはつまるところ地域住民個々人が享受すべきものとしての環境の保全であり、個々人の生活生命の安全としての災害の防止への配慮を総合的視野からなすべきことに外ならないのである。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち(一)は不知で(二)は争う。

2  同2(一)は、埋立面積を除き認める。埋立面積は約七八万六〇〇〇平方メートルである。

3  同3、4は争う。

五  補助参加人の主張

1  苓北火電の位置づけ

(一) 我が国を取り巻くエネルギー情勢及び今後のエネルギー対策の方向性

我が国の一次エネルギーは、石油・石炭・天然ガス・原子力・水力等で賄われているところこれらの一次エネルギーは、昭和四四年以降今日まで八〇パーセント以上を輸入に依存し、特に石油は九九パーセント以上が輸入で賄われている。このように我が国はエネルギーの輸入依存度が高く、なかでも輸入石油の比率において、とりわけ政情の不安定な中東に依存する度合が国際的にみても高いことから、二度の石油危機において経験したように、エネルギー供給構造は極めて脆弱である。このため石油依存度の低減を図つていく必要があり、ここにエネルギー源の多様化とその供給源の多様化を図る重要性がある。

(二) 石油代替エネルギーとしての石炭の位置づけ

石油代替エネルギーとしては、石炭・原子力・天然ガス・水力・地熱・太陽エネルギー等があるが、水力・地熱等は資源的に限界があるので、石油代替エネルギーの大部分は、石炭・原子力・天然ガスに頼らざるを得ない状況にあるが、これらの中でも、石炭については、石炭資源の量が極めて豊富で世界的に広く賦存していること、石炭の価格が石油に比べて安いこと、これらの石炭資源は、政治的に安定した先進諸国にも広く分布しており、供給の安定性が確保できること、等の理由から、これらの一次エネルギーの中核としての役割を期待されている。

(三) 補助参加人における電源の脱石油化・多様化

補助参加人においても、電力供給の長期安定確保とエネルギーコスト低減の観点から、バランスのとれた電源設備形成を目指し、原子力、石炭火力を中心とする電源の脱石油化・多様化を推進することとして電源開発を計画的に進めているが、国が要対策重要電源の一つとして指定した苓北火電も、脱石油化・多様化計画の重要な一翼を担うものとして位置づけている。

2  苓北火電における環境保全対策

(一) 工事中の環境保全対策

(1) 環境保全対策の実施状況

苓北火電の工事実施にあたつて、補助参加人は、種種の環境保全対策を講じており、これら諸対策の十分な効果のもとに、昭和五九年四月工事着工以来、順調に工事を進めているが、これらの環境保全対策は、熊本県及び苓北町と補助参加人との間で、昭和五七年八月三日に締結した建設協定がその根拠になつており、この協定の中で、水質汚濁・騒音・振動等については法令及び熊本県条例による規制基準を遵守するほか、周辺地域の環境保全のため万全の措置を講ずることを明確に定めている。

(2) 水質汚濁防止対策

ア 海域工事

護岸及び防波堤工事並びに取放水管敷設にあたつての床掘工事等には、必要に応じて汚濁防止幕を展張し、濁水の拡散防止に努めることにしている。

イ 陸域工事

発電所用地及び灰捨場の埋立工事にあたつては、護岸を先行して築造し、外海としや断した後に埋立てを行つている。この護岸には、防砂シートの敷設または鋼矢板の打込みを実施し、埋立土砂等の流出防止に努めている。また、建設工事中の発電所用地からの雨水等の排水については、敷地内に仮沈殿池を設置することにしており、必要に応じて汚濁防止幕を展張し、濁水の拡散防止に努めることにしている。

ウ 灰捨場余水

石炭灰の埋立処分については、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」及び同法に基づく「産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準」によつて規制されており、石炭灰の最終処分場となる当該灰捨場もこれら基準に適合した構造にしている。灰捨場からの余水は、余水処理装置により放流水が排水基準に適合するように維持管理することとしている。

エ 環境保全目標値及び監視頻度

水質の監視については、周辺環境との対比をするため工事施工区域外に基準監視点を設定して浮遊物質量の環境濃度を測定し、工事施工区域の外周の施工監視点における浮遊物質量の測定値が、環境保全目標値を満足するように工事管理、監視をしている。浮遊物質量の他に、濁度・透明度も監視項目とし、同時に測定して監視に万全を期しているが、監視は、それぞれの監視項目について定期的に、また工事進捗状況に応じて行うこととしている。

(3) 大気汚染防止対策

ア 船舶、建設機械及び車両から排出される硫黄酸化物等は、工事量の均一化をはかり集中的に排出しないような工事工程を組み、周辺環境へ影響を及ぼさないように努めている。また、砂ぼこり等粉じん飛散については、必要に応じクローバー他の播種による植生並びに散水を行い、飛散防止に努めている。

イ 大気質の環境保全目標値は、公害対策基本法に基づく環境基準値を採用しており、補助参加人は、熊本県及び苓北町と協議して、内田地点に大気汚染自動測定局を設置し、硫黄酸化物、窒素酸化物、浮遊粒子状物質、風向及び風速を連続測定監視するとともに、定期的に測定計器のチェックをしている。また、熊本県からも一ないし二カ月ごとに測定計器のチェックを受けており、測定監視に遺漏のないように努めている。

(4) 騒音、振動防止対策

ア 建設作業機械は、できるだけ低騒音型、低振動型を採用し、杭打作業等の特定建設作業にあたつては、工法・機種の選定等について配慮するほか、作業時間が早朝、深夜にならないような作業時間の設定を行つている。また、発電設備工事中の配管洗浄及びボイラー安全弁テストの発生音については、消音装置を設置し、騒音防止に努めるほか、事前にその発生について、関係機関及び地域住民に対し周知徹底をはかることとしている。

イ 騒音、振動の環境保全目標値については、騒音規制法並びに振動規制法に基づく特定工場等及び特定建設作業に係る基準による規制基準値を適用し、測定は、敷地境界線の外側三〇メートルにおいて月一回のほか、工事の進捗状況に応じて適宜行つている。

(5) 海岸変形対策

埋立に関連し、周辺海域について深浅測量及び汀線測量を年四回実施しており、周辺海浜に与える影響を実証的に把握して、必要に応じて関係機関と十分協議のうえ対策をとることにしている。

(6) 地下水監視

工事用水の揚水にあたつては、周辺井戸に著しい水位の変化を与えないよう、揚水井の近くに同じ帯水層の観測井を設け、自記水位計により地下水位の変動を連続監視している。

(7) 藻場対策

海域工事においては、水質汚濁防止対策等により濁りの拡散防止に努めるとともに、海域工事による天然藻場への影響を監視するために、毎月一回ダイバーによる目視観察を行つている。なお、埋立、防波堤の築造及び港湾工事により消滅する藻場については、その再生を考え、自治体や関係機関と協議して、代替藻場造成の試験調査を実施し成果を得たので、昭和六二年一一月代替藻場造成工事を完了した。

(8) 監視結果

各監視項目の監視結果が、環境保全目標値に適合しない場合及びそのおそれがある場合には、監視を強化し、その原因を究明するとともに、明らかに工事に起因すると認められる場合は、必要に応じて工事速度を減ずるか、または工事を中断するなどの所要の措置を講ずることとしているが、現在までこれら環境保全目標値を超えるような事態は生じていない。補助参加人は、この監視結果を熊本県及び苓北町に四半期ごとの工事進捗状況報告と合せて提出しており、行政側においても建設協定等の取決めを満足していることが確認されている。

(二) 運転開始後の環境保全対策

(1) 環境保全に対する配慮

苓北火電においては、以下に述べるように具体的な環境保全対策を講ずることとしているが、運転に伴う周辺環境への影響に対しては、法令及び熊本県条例に定められている基準・規制値を遵守することはもとより、これら基準・規制値より厳しい内容で、熊本県及び苓北町と補助参加人との間で締結した環境保全協定の協定値をも満足することで、環境保全を図ることとしている。

(2) 大気汚染防止対策

ア 硫黄酸化物減少対策

硫黄酸化物はボイラーで石炭を燃焼させる過程において、石炭中の硫黄分と空気中の酸素が反応して発生する。苓北火電においては、この硫黄酸化物を除去するために、ボイラー出口に排煙脱硫装置を設置することとしている。この装置の脱硫方式には、湿式と乾式があるが、充分な実績と信頼性に富む湿式石灰石―石こう法を採用し、発生する硫黄酸化物の九〇パーセント以上を除去することとしている。

イ 窒素酸化物の発生抑制対策

窒素酸化物は、石炭中の窒素分及び燃焼空気中の窒素が、ボイラーで石炭を燃焼させる過程において、燃焼空気中の酸素と反応して発生する。この際、燃焼温度が高いほど窒素と酸素の反応が促進され、窒素酸化物の発生量が増大する。苓北火電においては、窒素酸化物の発生を抑制するため、ボイラー燃焼方法の改善策として、低NOxバーナー、二段燃焼方式、排ガス混合燃焼方式の各燃焼改善方式を採用し、ボイラー内において石炭を燃焼させるに際し、火炎温度及び酸素濃度をできるだけ低く抑えるとともに、燃焼ガスの高温域滞留時間を短縮させることによつて、石炭中の窒素分及び燃焼空気中の窒素が燃焼空気中の酸素と反応する過程を抑え、窒素酸化物の発生を三分の一以下に抑制しようとしている。これらの方式は、わが国の石炭・石油火力発電所における現在までの稼働実績により十分実証されている。

ウ ばいじん減少対策

ばいじんは、ボイラーで石炭を燃焼させる過程において、石炭中の灰分等燃焼残渣として排ガス中に含有される。このばいじんを除去するために電気式集じん装置を設置して、大部分のばいじんを除去するとともに、湿式排煙脱硫装置の除じん効果により約99.8パーセントの総合除じん効率が得られる。

なお、除去されたばいじん及びボイラー炉底部にたまる石炭灰はセメント混和材や路盤材に有効利用するほか、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」により維持管理された埋立地に運ばれ埋立材として使用される。

エ 高煙突の採用による排煙拡散

前に述べたとおり、排ガス中の硫黄酸化物、窒素酸化物及びばいじんは、ほとんど除去されるが、排ガス中にわずかに残つた硫黄酸化物、窒素酸化物及びばいじんは、地上への影響をできるだけ低減させるために採用する二〇〇メートルの高煙突から高速で排出させることによつて、拡散稀釈を図ることとしている。

オ 大気拡散予測によるばい煙着地濃度等の事前評価

硫黄酸化物等のばい煙の大気拡散を事前に予測し、対策を講ずるための参考とすることは、環境保全の見地から必要不可欠のことといえる。この見地から、開発行為に際しては、事前にばい煙の大気拡散予測を行つているが、大気中に排出されるばい煙の拡散は、ばい煙が空気中に放出され空気を媒体として移動し、拡散するのであるから、基本的には風速、水平拡散幅、鉛直拡散幅、有効煙突高さ、排出量、大気安定度といつた空気運動に関する要素によつて支配され、これらの諸条件に応じて拡散形態も多様であるため、それぞれのケースに対応した予測手法の確立が図られてきている。本件発電所においては、大気汚染防止対策をふまえ、気象条件等を考慮し、予測に使用したモデル及び条件の妥当性を評価しつつ、大気拡散予測を行つた。

カ 炭じん飛散防止対策

苓北火電で使用する石炭は船によつて発電所に運ばれ、アンローダー、ベルトコンベア、スタッカーにより貯炭場に積み付けられ、また、リクレーマー、ベルトコンベアにより本館の貯炭槽に送られる。これらの石炭荷役による炭じん飛散の防止をするため、防じんカバーを設置し、さらに散水を行う。また、強風時の貯炭場からの炭じん飛散に対しても、発電所敷地境界外への飛散を防止するため防風ネットを設置し、さらに散水を行う。

キ 環境基準と排出基準並びに環境保全協定

環境基準は「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」(公害対策基本法九条一項)であり、国、地方公共団体が公害の防止に関する施策を講ずる目標となるもので、環境行政上の努力目標として位置づけられている。

一方、大気汚染防止法のばい煙等の排出規制は、ばい煙発生施設において発生するばい煙について、努力目標である環境基準が達成されるように排出基準(同法三条)を定めている。

大気汚染防止法で規制の対象となつている物質のうち本件発電所で該当するものは、硫黄酸化物、窒素酸化物及びばいじんであり、これらについては環境保全協定において法規制値より十分低い値で運用することとしており、周辺環境に与える影響はほとんどないといえる。

(3) 温排水に関する対策

温排水による周辺海域への影響を少なくするため、取水にあたつては温度の低い深層の海水を取水し、放水にあたつても苓北地点の海域特性、地形等を考慮し水中放水方式を採用する。

(4) 一般排水による水質汚濁の防止対策

苓北火電からの一般排水は、ボイラー用水設備及び排煙脱硫装置からの排水、機器洗浄水等があるが、一般排水は、一旦、貯槽に集め、総合排水処理装置で濁りを凝集・沈殿・濾過して除去し、CODを処理し、PHは中和剤によつて6.0〜8.5(水質汚濁防止法では5.0〜9.0)の範囲に調整することとしている。

(5) 騒音防止対策

苓北火電からの騒音については、発電所敷地境界で騒音規制法の第三種区域の基準を超えないようにするために、機器の屋内設置、低騒音機器の採用、遮音壁及び消音器の採用等の対策を行うこととしている。

(6) その他の対策

苓北火電敷地の緑化にあたつては、周辺の現存植生調査結果等に基づいて樹種の選定を行い周辺環境との調和を図るとともに、発電所構築物の配置や色彩については、自然景観及び周辺環境との調和を図ることとしている。

(7) 環境監視

苓北火電から排出される硫黄酸化物及び窒素酸化物については、煙道に連続測定装置を設け、中央制御室で常時監視するとともに、ばいじんについては煙道で定期的に測定し、煙突出口の排煙状況をテレビで監視することとしている。

また、復水器冷却水については、取水口及び放水ピットで水温を連続測定し、取放水温度差が摂氏七度以下であることを中央制御室で常時監視するとともに、発電所の一般排水については、総合排水処理装置の出口で連続自動測定または定期的に測定して水質を監視することとしている。

なお、発電所周辺の環境監視については、大気質では硫黄酸化物、窒素酸化物及び浮遊粒子状物質の環境濃度を、気象状況では風向、風速及び気温を連続自動測定により常時監視し、発電所の前面海域では、水温、水質、海象及び海生生物等について定期的に調査を行うこととしている。

更に、環境保全協定に基づいて排出ばい煙量、大気質及び気象の連続自動測定値をテレメーターシステムで熊本県に送ることになつている。

六  補助参加人の主張に対する原告の認否

争う。

第三  証拠<省略>

理由

一本件公有水面埋立免許処分がなされたことは当事者間に争いがない。

二そこでまず、原告らが本件公有水面埋立免許処分の取消を求めるにつき原告適格を有するか否かについて検討する。

1  行訴法九条は、処分の取消の訴えは、行政処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができると規定しているが、右「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害されまたは必然的に侵害されるおそれのある者をいい、右にいう法律上保護された利益とは、当該処分の根拠となつた行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であつて、それは、当該行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定の者が受けることとなる反射的利益とは区別されるべきものである(最高裁判所昭和五三年三月一四日第三小法廷判決、民集三二巻二号二一一頁参照)。そして、右にいう行政法規による行政権行使の制約とは、明文の規定による制約に限られるものではなく、直接明文の規定はなくとも、法律の合理的解釈により当然に導かれる制約を含むものである(最高裁判所昭和六〇年一二月一七日第三小法廷判決、判例時報一一七九号五六頁参照)。

2  これを本件について見るに、原告らは、本件埋立予定地周辺の海域において操業する漁民、周辺地域に居住する農業従事者、じん肺患者、その他の住民であり、本件埋立が実施され、さらにその埋立地上に計画されている苓北火電が建設され稼働することによつて、その生命、健康に危険が生じ、農業及び漁業活動が阻害され、良好な自然環境を奪われる立場にあるとして、本件埋立免許処分の取消を求めている。そこで、本件埋立免許処分の根拠法規である公水法が、原告らの個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を加えているか否かについて検討する。

(一)  公水法は「公有水面に関し権利を有する者」として、「法令により公有水面占用の許可を受けた者」、「漁業権者または入漁権者」、「法令により公有水面より引水を為し、または公有水面に排水を為す許可を受けた者」、「慣習により公有水面より引水を為しまたは公有水面に排水を為す者」を挙げ(公水法五条)、公有水面の埋立については右権利者の同意を得ることとし(同法四条三項一号)、かつ、埋立の免許を受けた者は、右権利者に対して、損害の補償または損害防止の施設をなすべき旨定めており(同法六条一項)、同法が右に列挙の権利者らの個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を加えていることは明らかである。そして、同法に基づく公有水面の埋立免許は、一定の範囲の公有水面の埋立てを排他的に行つて土地を造成すべき権利を付与する処分であるから、当該公有水面に関し権利利益を有する者は、右埋立免許処分によつて当該権利利益を必然的に侵害されるおそれのある者であり、したがつて、その処分の取消を求め得るものといえる。

しかるに、原告らのうち、別紙原告目録54、62、72の原告ら三名は、本件埋立予定地周辺の海域に共同漁業権を有する訴外苓北町漁業協同組合の組合員であり、現に本件埋立予定地周辺の海域において漁業を営み生計を立てている者、同目録2、3、6、7、9、10、20、22ないし34、36ないし41、43、52、53、55ないし61、63ないし65、73、74、76の原告ら四二名は、本件埋立予定地のある苓北町ならびにこれに隣接する五和町において農業を営み生計をたてている者、同目録1、5、19、21、48ないし51、66、75の原告ら一〇名は、じん肺法に基づき、熊本県労働基準局長から要治療と認定されたじん肺患者、右以外の原告ら二一名は、苓北町及びこれに隣接する天草町、五和町、本渡市に居住する自治体議員、公務員、教師、医師、小売商及び主婦等であることは原告ら自ら陳述するところであり、右原告らの主張自体によつても、原告らが、右「公有水面に関し同法所定の権利を有する者」とは到底考えられず、本件埋立免許処分により直接に法律上の影響を受ける立場にないことは明らかである。他方、同法上、原告らの主張する利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課している明文の規定はなく、また、同法の解釈からそのような制約を導くことも困難である。

(二)  この点につき原告らは、公水法四条が、埋立免許の基準として「その埋立が環境保全及び災害防止に十分配慮せられたるものなること」(同条一項二号)、「埋立地の用途が土地利用または環境保全に関する国または地方公共団体(港湾局を含む)の法律に基づく計画に違背せざること」(同条一項三号)を挙げていること、さらに、埋立免許の出願に際しては「埋立地の用途」を記載した願書を提出すべきこと(同法二条二項三号)、主務大臣の認可に際し、環境保全上の観点からする環境庁長官の意見を求めるべきこと(同法四七条二項)等の法条及びこれらに関る施行令の規定を根拠に、本件埋立及び埋立地に設置されるべき苓北火電の建設・稼働によつて被害を受くべき原告ら主張の利益も同法によつて保護された利益である旨主張している。

しかし、埋立免許の基準として挙げられた環境保全に関する右諸条項は、なるほど、国民共通の課題・理念である環境の浄化、維持を推し進める一環として規定されたものではあるが、一方、そこで保全されるべき対象ないし範囲については、同法五条に比して極めて抽象的かつ一般的な形でしか定められておらず、したがつて、これによれば、立法の沿革を含む合理的解釈によるも、当該諸条項は、右の課題・理念の達成という一般的な公益の保護を目的として行政権の行使に指針を与えているにすぎないと解されるのであり、反面原告らの主張する利益を個別的、具体的に保護した規定とまで解するのは困難である。しかも、埋立地の用途に従つて設置される苓北火電の稼働については、これによる環境保全の問題は電気事業法、公害規制諸法で、同じく災害防止の問題は消防法、建築基準法等でそれぞれ審査・規制されることとなつており、また仮に、同火電の稼働によつて、現実に原告らに被害が発生し、あるいは発生するおそれがある場合には、民事訴訟においてその稼働の差止を求めることも手続上は可能であつて、これからみると、同火電の稼働に伴う被害発生の可能性については、法解釈上公水法の規制する範囲外の問題であるといえる。

してみると、原告らが右に主張する公水法上の各規定は、一般的、公益的な見地から環境保全について配慮すべきことを定めたに止まり、原告らの主張する権利利益を保護するために行政権の行使に制約を加えたものではなく、前記各規定によつて原告らの利益が保護されるとしても、それは反射的利益にすぎないと解するのが相当である。

3  したがつて、原告らは、公水法によつて保護された権利利益を有せず、本件埋立処分によつて右権利利益を必然的に侵害される立場にもないから、本件埋立免許処分の取消を求める法律上の利益を有しない。そうすると、原告らは、本件取消訴訟において、行訴法九条にいうところの原告適格を欠くものといわざるを得ない。

三よつて、原告らの請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも不適法であるから却下し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条、九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官足立昭二 裁判官喜多村勝德 裁判官石村太郎は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官足立昭二)

別紙原告目録<省略>

別紙公有水面目録<省略>

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